建築ツアーレポート前編:秋田で体感するグリーンビルディング(もるくす建築社様)

2022年3月2日から4日にかけて、チャネルオリジナル全営業所参加による「グリーンビルディングを学ぶ」ための建築ツアーが秋田にて開催されました。このツアーは2013年から開催しており、今回で10回目となります。

弊社が提唱するグリーンビルディングは、環境に配慮した素材+温熱環境設備を通して、「エコロジー」と「エネルギー」の両方に貢献する建築を目指すものです。今回の建築ツアーは秋田という極寒の地で、グリーンビルディングを実践されている〈もるくす建築社〉様の建物視察を通し、その実例を直に体感いただくことを目的とした機会となっております。当日は全国から13社の工務店、ビルダー、設計の実務担当者の方にご参加いただき、非常に学びの多い盛況なツアーとなりました。

もるくす建築社代表・佐藤欣裕社長は、すでに省エネ・パッシブ・温熱の建築分野で秋田のみならず全国にその活躍を広げていらっしゃいます。〈第1回エコハウス大賞2015〉大賞受賞、〈JIA環境建築賞 住宅部門2017年度〉最優秀賞受賞、自社設計のみならず他県ビルダーの商品企画・アドバイザリーを務められ、講演などではその知見を多くの関係者に伝えておられます。

ツアーは建設中の現場から、住宅、アトリエ、レストランの見学に、セミナーまで盛りだくさんの内容となりました。前編では、佐藤社長の自邸である〈佐戸の家〉と、昨年完成し実験棟を兼ねた新社屋〈美郷アトリエ〉の見学時の様子をご紹介いたします。

佐戸の家

photo by 奥山淳志

佐戸の家は佐藤社長の自邸であり、太陽光発電とバイオマスエネルギー、そして自然光(パッシブエネルギー)による「オフグリッドハウス」を実現しています。つまり、化石燃料を必要としない完全エネルギー自立型の建築です。2019年にはドイツのPHIから正式にパッシブハウス認定を取得し、これは北東北で初めての快挙とのこと。こちらでは、その高い性能とこだわられた素材による仕様を体感させていただきました。

まず、外壁には秋田県産の秋田杉を使用されています。地産地消の考えをこの仕様で表現されると同時に、築6年を迎えた木は、無塗装ならではの美しいシルバーグレーへと経年変化を遂げていました。豪雪が続くこのエリアでも、木の外壁が耐久性と美観両方をきちんと実現している好例と言えます。

photo by 奥山淳志

室内に入ると、当日の外気温が2℃に対して室内は18℃前後と、室内外の温度差が小さく、この季節とは思えない快適さを感じられます。さらに驚いたのは、こちらの家の暖房は1階リビングの薪ストーブのみでまかなわれているとのことでした。しかも、この日はそれさえ稼働させていない状態で室温を維持されていたのです。

この快適な環境を実現している要因のひとつが、南面のリビングに設けられた大きな開口です。高さ2.48m、幅8mに渡ってトリプルガラスのサッシが取り付けられ、太陽光の恵みをしっかりと室内に取り込む―まさしくパッシブな性能が活かされているのです。

これには参加者の皆様も大変感心され、北海道から来られた株式会社順工務店の高見社長は「東北地方においても日射取得を上手に活かすことで、暖房が無くともここまで暖かさを感じられるものなのですね。」と驚かれていました。

photo by 奥山淳志

また、特徴的なのはダイニングの壁に使われた院内石。単なる意匠的な意味でなく、蓄熱体の役割を果たしているとのこと。「密度が高く、比重が大きいものは、熱容量が大きいので温まりにくく冷めにくい」=つまり、この石が、冬は太陽の熱を蓄熱して自然の暖房に、そして夏は夜間外気を取り入れて冷たさを保持するのです。

躯体性能は壁厚420mm・断熱材の仕様はウッドファイバーと、高性能化をベースに「自然の知恵」を取り入れてオフグリッドを実現している、まさしくJIA環境建築賞 最優秀賞を受賞された高い性能を実感した空間でした。

「木の外壁」に加えて、当然インテリアもエコロジーに配慮した仕様が。 国産の広葉樹ニレ・ナラを床、建具に採用されています。竣工当時はニレ特有の赤みがみられたものの、年を重ねるごとに黄褐色へと変化。建具の北海道産ナラに馴染んだ連なりを感じられました。

美郷アトリエ

photo by 奥山淳志

2021年に完成した美郷アトリエは、佐戸の家で体現された高性能住宅を「木や石、土といった自然物を用いて、ゆらぎある快適な空気環境を実現する」という大きな試みを具現化された木造建築です。特筆すべきは、木を積層してつくられた315mm厚の壁構造。驚くことに、これは一般的な木造住宅の壁の厚さと比べて約2倍にあたります。

木の壁は大きく分けて3層構造となっています。室内側から105㎜角の柱材をビスとボルトで縦に並べてパネルにした「縦ログ構法」は耐力壁と仕上げの両方を兼ねておられます。その外側には杉板(幅105㎜/厚さ30㎜)の板材を7枚縦横にビス接合した積層パネルにより断熱性を確保。外側には熱橋止めの役割としてボード状のウッドファイバーを外張りしています。

躯体だけでなく、天井、壁、床と建物全体にも半径50km圏内で採取できる杉材や石、土を使用。これらが持つ蓄熱容量・調湿作用を活かすことで、一日数回の窓開閉のみで換気をまかなえる、自然体で心地のよい空間が見事に実現されていました。

また、パッシブな建築は南側に居室を持っていくことが多い中で、グレア(眩しさ)や室内の作業性を考慮し打ち合わせ室は北側、オフィス部分は東配置とした当建築。直射を避け、夏の涼しさを獲得し、光のコントロールを目的としたゾーニング(位置関係)にされているとのこと。

打ち合わせ室:北面の安定した光とそれに合わせた照明配置によって心身ともに落ち着く空間が広がる。

photo by 奥山淳志

作業場:現しの登り梁によって開放的な室内。間仕切り壁は非構造としておりフレキシブルな使用が可能。まさにサステナブルな建築と言える。

photo by 奥山淳志

photo by 奥山淳志

その代わりに、南廊下には全長9m・日射取得率60%を誇るトリプルガラス構造のカーテンウォールを設け、太陽光を室内へと存分に取り込む仕様にされています。これによって、窓から入った光が土壁や床にあたることで熱へと変わり、それを暖房として活用する“ダイレクトゲイン”を可能にしているのです。

UNILUX社のカーテンウォール・FINELINEは、窓枠がわずか50mmと細くガラスの面が大きくとれるため、まるで縁側のような気持ちよさを感じながら外の田園風景を愉しめる空間が演出されていました。

ツアー前半を終え、神奈川県からご参加いただいた株式会社セットの谷社長は住宅の性能値に対するプレッシャーが少し緩和されたと話します。

「昨今の性能競争による影響から、住宅のUA値を上げなければ時代に乗り遅れてしまうのではないか、という考えに縛られていたなと感じます。作り手側の私たちこそもっと肩の力を抜いて、住む人が快適に感じられる環境を作るにはどうしたら良いか、まずは本質的な部分を考えていくことが必要だと改めて感じられた一日でした。」

まさに、人が本能的に感じる心地よさを常に追求し、これを体現されつづける佐藤社長の想いが建築を通じて伝わった瞬間であると感じます。また、それと同時に“グリーンビルディング”の新たな広がりを感じられ、弊社にとっても大きなモチベーションに繋がる貴重な機会となりました。

続きは後編にて、お施主様へのインタビュー、2日目に開催された講義を通して佐藤社長の家づくりに対する想いによりフォーカスしてまいります。(Yano)