関東の夏と、高断熱住宅-オープンハウスレポート

2022年3月に、伝統的な木組みと高気密・高断熱を融合した建築を実現された〈株式会社けんちくや前長〉様。2022年6月17日のチャネル通信では、栃木県さくら市で開催された完成見学会にて、代表の前澤社長より「ご自邸で温熱分野に挑戦された経緯」についてお話を聞かせていただきました。

今夏に開かれた前澤様邸のオープンハウスでは、「高断熱住宅で夏を過ごし、気づき得たこと」をお話いただきましたので、取材当日の体感も踏まえながらご紹介させていただきます。

関東の夏に向き合う

オープンハウス当日の外気温は、午前10時時点で27℃・湿度は86%(絶対湿度19.4g/kg)と半袖1枚でも蒸し暑く、汗ばむ気候です。しかし、前澤様邸に一歩足を踏み入れると空間全体がさらっとした空気に満ちており、心地良さを感じられました。

室温は25.4℃・湿度は72%(絶対湿度14.6g/kg)。外と内の温度差は少ないながらも、湿度は室内側が10%(絶対湿度5g/kg)以上低いという、快適な空気環境を構成する条件が見事に整えられていたのです。

室内を見渡すと、すべての窓が閉めきられた状態で、1階と2階に(1台ずつ)設置された除湿型の放射冷暖房・ピーエス(=ルーバー状の管に水、または温水を循環させ、そこから放射される自然対流によって空間全体を冷暖房する)が稼働していました。

写真:ピーエスは、1階リビングと2階の廊下に1台ずつ設置。室外機は1台でまかなわれています。

その他の冷暖房設備は設置されておらず、かつ人の出入りが常にある状況においても、こういった心地良さを感じられるのは、躯体構造のすべてを「木」で構成されている前澤様邸ならではと言えます。

写真:前澤様邸の躯体構造を表した模型(壁の断熱は計300㎜厚、屋根の断熱は計420㎜厚)

▸前澤様邸の躯体構造・断熱性能の詳細につきましては、チャネル通信でご紹介しております
第106回 施工例レポート

前澤様邸の壁と屋根の全面にご採用いただいた「木質系断熱材」。
木が持つ「大きな熱容量」によって、夏の日射を壁内で蓄熱し、放射を緩やかにするため、室内の温度変化を小さく抑えることができます。また、他断熱材よりも高い調湿性能を有しているため、室内の湿度バランスも自然と調節してくれるのです。

実際に1階と2階を歩いてみましたが、私にはどこも温度ムラが少なく、清々しい空間に感じられました。

前澤社長にお話を伺うと、どんな高性能住宅でも多少の温度ムラは出てしまうとのこと。ただ、熱を蓄えることのできる木質系断熱材を多用することで、これらが持つ調湿効果と表面温度の安定が相互作用し「場所によってムラはあるはずなのに、なんだか心地良い」、そんな感覚に着地できるのだと思うと教えていただきました。

また、気温が高い日はピーエスを弱運転に、風が吹く日や時間帯によっては窓を開けるなど適宜調整を行っているという前澤社長。

「もともと夏場は、自然換気を積極的に活用したいと考えていました。屋根から落ちた雨を、軒下のクールスポット(=150㎜厚の大谷石と植栽)が受け止めることで、微弱な冷気が発生する。それを窓から室内に取り入れて、夜のうちに建物を冷やすという想定です。このあたりは夏になると雷雲が発生しやすく、激しい夕立が起こりやすいので、その効果も期待していたんです。

でも、いつだって雨が降るわけでも、風が吹くわけでもない。それに関東の夏は、夜になっても空気が生ぬるいですよね。立地もありますけど、様々な条件が揃わない限り、自然の力だけに頼るのは難しいと実感しました。状況によっては設備を稼働させて、室内の空気環境をコントロールすることも必要だと分かってきたところです。」

高性能サッシと、夏の遮蔽対策

また、高性能サッシには、夏の遮蔽対策がセットであることも教えていただきました。

写真:リビングに設けられた大開口。正面左側が東面、正面右側が南面にあたる。

前澤様邸は、開口部にトリプルガラス構造・高性能樹脂サッシの〈UNILUX〉を採用されており、高い断熱性と気密性を実現されています。南面には日射取得率62%(Ug値0.6W/㎡・K)のサーモホワイトガラスを配置し、太陽光を室内へとより多く取り入れる仕様としました。

「冬場は、UNILUXから入ってくる日差しが暖房代わりになるほどでした。ですから、やっぱり夏場は日射遮蔽をする必要がありますね。特に東面と西面、朝日と西日の対策が大切だと思います。夏は時間帯によって、太陽高度が低い位置から強烈な日射が真横に入ってくる。結果、ガラスと枠の表面温度が上がり、想定以上の放射温度を感じました。南面は軒の出があるとかなり防げるので、小庇等でも十分でしょう。

今回は意匠性を優先し、開口の外側には“何もつけない”選択を取りましたが、やはり計画の段階で遮蔽ブラインド用の電源を設けるなど対策を講じておくことが必須だと思います。次の実験として、前澤邸は来年の夏までにルーバー型の木製雨戸を付けようと画策中です(笑)」

日々の体感から、最適解を探していく

朝から雨が降り続いたものの、午後には晴れ間が見られたオープンハウス当日。日差しが出てから気温は約2℃上昇しましたが、前澤様邸は室温25.5℃~26℃・湿度70%前半を常にキープし、一日を通して快適な空気環境が実現されていました。

オープンハウス終了後、”これが完成形だとは思っていない”と話された前澤社長。

「自宅の温熱監修をしてくれた佐藤社長(秋田県・もるくす建築社)に貰ったヒントをどう活かすか。高断熱住宅は、“関東の夏”とどう向き合っていくのが良いのか、自分で体感して、模索して、最適解を見つけていくことが必要だと改めて感じました。」

けんちくや前長様が掲げる『伝統の、その先へ』。
これまで追求されてきた家づくりの技術、素材へのこだわり。(=伝統)
暮らす人の健康、建物の長寿命、環境負荷の軽減‐現在の暮らしがつくる“未来”のことを想い至られた、温熱と伝統工法の融合。(=その先へ)

ご自邸の家づくりを通して、前澤社長が自ら考え、経験し得たことが、お客様への的確なご提案に繋がっていく。それはまさに、伝統の“その先へ”という言葉を体現されていると感じました。

夏の高断熱住宅について、率直なお話を聞かせていただいた前澤社長、本当にありがとうございました。伝統と温熱を融合した「これからの木造建築」をリードされる、けんちくや前長様の今後のお取組みを、これからも楽しみにしております。(Yano)


弊社納材商品
UNILUX IsoPlus(樹脂サッシ)
UNILUX 木製アルミサッシ(オーク/パイン)
UNILUX 木製サッシ(オーク)
ウッドファイバー
パヴァテックス(木質繊維断熱材)
パフォームガード(基礎断熱)
ノルド 木製玄関ドア
ウルト 透湿防水シート、他副資材
ピーエス除湿型放射冷暖房HR-C(パネルヒーター)
北海道産クルミ節有フロア 75巾/無塗装
北海道産タモ節無フロア 120巾/無塗装

会社情報
株式会社けんちくや前長
栃木県那須烏山市野上389-9
https://maechou.co.jp/