水を貯え、熱を調える。〈雨庭の家〉に見るグリーンインフラと住宅性能

都市化の進展により、雨水の浸透・貯留機能を担う緑地や田畑が減少している東京都。その結果、集中豪雨の際には雨水が一気に河川や下水道へ流れ込み、氾濫を引き起こす「都市型水害」のリスクが高まりつつあります。

そうしたなか、23区で最も人口が多い世田谷区では、緑地の保全や緑化の助成、雨水の有効活用などを通じて、自然が持つ力を都市環境に取り入れる「グリーンインフラ」の取り組みがいち早く進められています。

こうした背景のもと、雨水を“資源”として活かし、世田谷区の住宅地に取り入れたのが〈雨庭の家〉(以下、N様邸)です。雨庭(あめにわ)とは、敷地に降った雨を一時的に貯留し、地中へゆっくりと浸透させる機能をもつ植栽空間のこと。N様邸では、この雨庭の機能が備えられています。

雨庭の家(N様邸)

設計を手がけたのは、都内を拠点とする〈パッシブデザインプラス株式会社〉代表取締役の冨田享祐様です。自然の力を活かし、快適な温度・湿度環境をつくる“パッシブデザイン”を、建物単体ではなく、庭や敷地全体と一体で考える統合的な設計を実践されています。

雨庭の導入に至られた経緯について、冨田様にお話を伺うと——

冨田様
「これまでも、庭に直接降った雨を貯留浸透させていく雨庭はつくっていましたが、屋根に降った雨まで雨庭に貯留浸透させたのはN様邸が初めてでした。また、どれだけ水を貯められて、どのくらいの時間で浸み込んでいくのか、といった数値化を始めたのもN様邸からです。雨庭型のお庭は浸透力がとても高いですし、世田谷区では、(申請と検査を経て)条件が満たしていれば、補助金が受けられます。それは住まい手にとっても、地域にとってもハッピーですよね。こういう仕組みがもっと広がったらいいなという想いもあり、取り組みました。」

今回の取材では、雨庭を中心とした敷地づくりとともに、弊社の高性能サッシ〈UNILUX〉などをご採用いただいた開口部の工夫など、現地でじっくりと見せていただきました。

雨庭が支える、都市の治水と環境保全

最初にご案内いただいたのは、建物の南側に位置する中庭です。芝生の上には木チップや落ち葉が敷き詰められており、ふかふかとした足触りと、しっとりと潤いを含んだ空気に心地よさを覚えました。

この中庭を含む敷地には、雨水を敷地内で受け止め、ゆっくりと地中に浸透させるしくみが張り巡らされています。屋根に降った雨は、南面の中庭と、対になる北面の双方から駐車スペースへと流れ込む構造になっており、南面では雨樋を雨水枡に直結させるのではなく、素掘りの細長い溝に開放し地中に浸み込ませながら「雨庭駐車場2」へ、北面では雨樋から雨水管を通じて「雨庭駐車場1」へと導かれるしくみです。

「雨庭駐車場1」「雨庭駐車場2」では1時間あたり合計30mmほど、敷地全てで考えると1時間あたり170mmの降雨まで対応できる容量が確保されており、それを超えた分のみ道路の側溝へと排水されるようになっています。

パッシブデザインプラスでは、落ち葉や木の枝、藁、炭・くん炭たんなどを活用した造園工事を行っている。土中環境の改善にアプローチすることで、敷地そのものが治水や温熱環境を支える役割を担う。

雨水を地中に浸透させるには、通常は泥をろ過するために透水シートを敷く方法が一般的ですが、N様邸ではより健やかな土中環境を目指し、砕石と藁を層状に重ねる手法を採用。そこに植物が深く根ざし、力強く土中の水を吸いあげる素地をつくることで、水の動きをつくって滞水を起こしにくい“健全な土壌”を育むための工夫が施されています。

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また、こうした雨水循環の設計は、都市型水害の抑制に貢献するだけでなく、地域の自然環境を守ることにもつながります。N様邸が建つ〈国分寺崖線〉の台地は、貴重な湧水の源であり、その水域にしか生息できない植物や生き物も存在しています。

中庭でお話を伺いながら、雨庭に沁み込んだ水が長い年月をかけて地中を巡り、やがて湧水として地上に現れるという循環を想像し、地域の未来にもつながる設計の意義を改めて感じました。

戸建てでも安定した温度を保つために。高性能サッシ〈UNILUX〉という選択。

建物は、延床面積215.82㎡(木造2階建)というゆとりある広さを持ちながら、UA値0.29W/㎡K、C値0.1㎠/㎡という高い性能値を実現しています。

竣工から1年が経過した現在の住み心地について、施主のN様にお話を伺いました。

N様
「冬は、PS(除湿型放射冷暖房)と土間の蓄熱床暖房だけで本当に暖かく過ごせます。PSは一括で温度を設定するのですが、ある日、夫がいつもより2℃高く設定していて…。その夜は、冬なのに暑くて、私も子どもも目が覚めてしまったんです。ほんの少しの温度差で体感が大きく変わることに驚きましたし、家の性能の高さを実感しました。夏は、小屋裏に設置したエアコンをゆるく運転するだけで、十分快適でしたよ。」

もともと高性能マンションにお住まいだったN様ご家族にとって、「戸建てに住むなら高気密・高断熱であること」は絶対に譲れない条件だったそうです。なかでも、断熱と気密の要となる“窓”の選定には特に慎重を期されたとのこと。

そこで設計の冨田様がご提案されたのは、ヨーロッパ最高基準の性能を備えるトリプルガラス構造の高性能樹脂サッシ〈UNILUX〉(以下、ユニルクス)です。オーダーメイド対応で大開口にも対応できる点や、断熱性・気密性・耐久性に優れていることから、長期的に見てもメリットが大きいと判断されました。

多目的スペースには、ユニルクスの木製アルミクラッドウィンドウ(室内木枠+室外アルミ)を配置。ヘムのパネリングやオークのフローリングとも調和する意匠が魅力。

導入にあたっては、全窓(※天窓を除く)にユニルクスを採用している〈株式会社けんちくや前長〉前澤代表のご自宅を訪問。実際の使用感や性能をN様ご家族に体感いただいたうえで、計30ヶ所にユニルクスをご採用いただきました。

前澤様邸の事例記事は、こちらからご覧いただけます。
『伝統と温熱』—けんちくや前長が示す、これからの木造建築

“遮る”ではなく、“調える” ─ 住まいの質を高めるブラインドの存在感

取材中、話題はユニルクスにあわせて設置された、屋外用の電動ブラインド〈エクスターナルベネチアンブラインド〉へと広がりました。

「電動の外付けブラインドって、操作したことあります?」と、リモコンを手渡してくださったのは設計の冨田様。実際に操作してみると、羽根の角度がスムーズに変化し、それにあわせて室内の光や雰囲気もやわらかく移ろっていきます。角度は6段階で調整でき、手元の操作だけで簡単に光の入り方をコントロールできるのが印象的でした。

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冨田様
「ユニルクスは日射取得率が高いため、特に夏場はオーバーヒートする可能性があります。でも、カーテンを取り付ける仕様ではないので、日射対策をどうするかは悩みどころでした。その点、外付けブラインドであれば、そうした課題を解消しつつ、視線を遮りながらも外とのつながりを感じられる。価格は上がりますが、それに見合う価値は十分にあると思い、ご提案しました。」

ユニルクスは、ガラス4㎜×3枚+空気層18㎜×2層を組み合わせた総厚48㎜のトリプルガラス構造。

ご採用いただいたブラインドは、建物内に侵入する日射を最大90%カットし、夏場の冷房負荷を大幅に軽減できる点が大きな特長です。羽根部分にはフルコーティングの耐腐食仕様が施されており、また、風を受け流すフラットな形状によって、ねじれや衝撃にも強く、美しい状態を長く保つことができます。

外壁、開口部、外付けブラインドがグレーカラーでまとめられている。フェンスは屋久島地杉材をカット&塗装したオリジナル仕上げ。

さらに、カラーバリエーションは全6色を展開。建物の外観や空間のトーンにあわせて選べるのも、意匠性を重視する住まいにとって嬉しいポイントです。

暮らしを形づくる、丁寧な選択の積み重ね

取材を通して印象的だったのは、開口部に限らず、エクステリアからインテリア、家電に至るまで、お施主様のこだわりが住まいの隅々にまで反映されていたこと。最後に、冨田様へ家づくりのプロセスについてお話を伺いました。

冨田様
「素材の選定に関しては、N様は本当に手強かったですね(笑)。これまでの経験から“これが良いと思います”とご提案しても、なかなか首を縦に振っていただけない。でもそれは、丁寧にリサーチを重ねて、判断軸をしっかり持たれているからこそ。僕の手札が通用しないことも多々ありましたが、最終的にはいつもバッチリなものを選ばれるんです。完成してから、ああ、より良いものを選んでもらえて良かったなと感じました。」

今回、弊社からは高性能サッシをはじめ、床材・デッキ材・断熱材など多岐にわたる製品を納品させていただきました。住まいを構成する素材から性能、意匠まで追求されたプロジェクトに、こうして関わらせていただけたことを心から嬉しく思います。

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1枚目:ウッドデッキと軒天には、屋久島の豊かな森で育った地杉を使用。/2枚目:2階には、北海道産マカバの節無フローリングを採用。艶のある赤みが、空間にぬくもりを添える。/3枚目:リビングに設置された〈PS〉。輻射式の冷暖房で部屋全体をやさしく包み込む。

また、グリーンインフラという新たなアプローチを、住宅という身近なスケールで実現されたN様邸。数値化によって、これまで見えにくかった健やかな土中環境の価値が可視化され、敷地全体を住まいとして捉える考え方が、今後より多くの住宅に広がっていく——その芽吹きを、取材を通して確かに感じることができました。

くさび型の雨樋の先に置かれた鉢には、雨水を利用したメダカの住まいが。自然の循環が、暮らしのなかにそっと息づいている。

貴重なお話をお聞かせくださった〈パッシブデザインプラス株式会社〉の冨田様、そしてN様ご家族に、心より御礼申し上げます。本当にありがとうございました。

設計:パッシブデザインプラス株式会社
東京都世田谷区梅丘 1-59-28 梅ラウンジ 1F
https://pd-plus.jp/

弊社納材商品
窓:UNILUX IsoPlusUNILUX木製アルミクラッドウィンドウノルド木製サッシ
ブラインド:エクスターナルベネチアンブラインド(屋外用)
床:北海道産マカバ節無フローリング、北海道産クリ節無フローリング 15㎜×120㎜×乱尺
軒天・デッキ・フェンス:屋久島地杉材
壁・天井:オーク節無パネリング、ヘムパネリングMIXグレード
冷暖房:除湿型放射冷暖房PS HR-C
他多数

チャネルオリジナルは、国内外の多様な建材のご提案を通じて、お客様の家づくりと真摯に向き合い、価値ある家づくりを支えるパートナーでありたいと考えています。それぞれの現場や想いに寄り添えるよう、今後も全力でサポートを続けてまいります。