『災害に屈しないと宣言した親子のリノベーション』地域工務店Rebornが導く、再生の住まいづくり
脱炭素社会の実現に向け、優れた住宅設計を表彰する〈エコハウス大賞〉。
2024年11月に開催された第8回のコンテストでは、省エネ性能や快適性、デザイン性に優れた作品がノミネートされる中、弊社製品をご採用いただいた事例が〈リノベーション部門〉で賞を受賞されました。
本記事では、同部門の優秀賞に輝いた〈株式会社Reborn〉様(以下、Reborn)による『災害に屈しないと宣言した親子のリノベーション』(以下、K様邸)をご紹介いたします。

災害に屈しないと宣言した親子のリノベーション(K様邸)
K様邸
所在地 :長野県長野市
規模 :改修住戸1階
家族構成:夫婦
採用製品:オビスギウォール(外壁)、北海道産ナラ節無フローリング(床)
築47年の木造2階建て住宅を平屋に減築し、フルリノベーションによって耐震性能・断熱性能を大幅に高めたK様邸。当建築を手がけたRebornは、〈坂田木材株式会社〉取締役の坂田吉久様(現・専務取締役)と、〈しおはら住宅デザイン設計〉で代表を務めていた塩原真貴様が、2014年に創業した工務店です。
“既存の住宅を根本から再生する工事を行い、住まう人の健康をかなえ、生涯快適な暮らしができるような価値の高い住宅を提供する”という理念のもと、耐震・断熱改修を中心としたリフォーム事業からスタート。現在では、新築の設計施工、リノベーション、不動産仲介など、住まいに関わる幅広い事業を展開しています。
今回は、設計から現場管理まで一貫して手がけられた取締役ゼネラルマネージャー・塩原様に、本事例の詳細や家づくりへの想いについてお話を伺いました。
被災からはじまった、住宅の再生計画
施主のK様ご夫妻がフルリノベーションを決意するきっかけとなったのは、2019年10月に発生した台風19号。敷地の近くを流れる川が氾濫し、空き家となっていた2階建て住宅が床上10cm以上の浸水被害を受けたのです。

もともとは、同敷地にある高気密・高断熱のログハウス(ポスト&ビーム工法2階建て、Ua値=0.45・Q値=1.6程度)に一家で暮らしていましたが、被災後は息子さんご家族が浸水した家屋に移り住み、DIYでの改修を進められたそうです。しかし、その快適さはログハウスに及ばず、不安が残る状態が続いていました。
そうした中、より安全・安心な住まいを目指して市の耐震診断を受けたところ、「震度5強で倒壊の恐れあり」との厳しい結果が──。
これを受けてK様一家は、本格的な耐震補強と断熱改修に踏み切ることを決意。塩原様との綿密な打ち合わせを重ねた末、浸水被害を受けた家屋を改修し、K様ご夫妻がそこに住まわれることに。一方、ログハウスには息子さんご家族が暮らすことになりました。
諦めない心が未来を拓く
K様邸のプロジェクトには、“災害に屈しないと宣言した親子のリノベーション”という印象的なタイトルがつけられています。この名前に込めた塩原様の想いを伺いました。
「K様邸がある地域は、昔から水害が多い場所で、少し離れたところに大きな川が流れています。大雨が降ると、その川の氾濫を防ぐために水門が閉められるのですが、そのぶん、周囲の小さな川が犠牲になるという地域的な背景があります。
K様も、一時は移住を検討されたこともあったのではと思いますが…先祖代々この土地で暮らし、農業もされているので、今さら別の土地に移るというのは現実的ではなかったんですね。
多くの人は移住や売却、あるいは空き家のまま放置するという選択をされる中で、K様は“もう一度、ゼロからやろう”と決断されたんです。僕は、その選択が本当にすごいと思いました。K様一家の決意そのものが、この家の本質を表しているように感じて、このタイトルにしようと決めました。」
災害への備えと、快適さを両立する住まいへ
インスペクション(住宅診断)を経て、既存躯体を活かしたフルリノベーションがスタート。既存の梁や柱のうち健全なものは残しつつ、構造体に金物を加えることで、耐震性を向上しています。

断熱改修では、高性能グラスウールを採用。屋根・天井にはそれぞれ300mm、壁には225mm(室内側には気密シートを併用)、床下には245mmの断熱材を施し、十分な断熱厚を確保しました。また、全ての開口部にトリプルガラスの樹脂サッシを採用することで、躯体全体で高い断熱・気密性能を実現しています。
その結果、改修後の住宅はUa値=0.22・Q値=0.87を達成。(断熱等級7 / HEAT20・G3レベル)冷暖房設備に過度に頼ることなく、年間を通して快適な室内環境を保つ住まいに生まれ変わりました。
さらに、将来的な水害リスクへの備えとして、床下全域に防湿コンクリートを打設し、従来よりも床高を40cm上げる構造に。室外機や暖房用ヒートポンプなどの外部設備も、地面から1m以上の高さに設置することで、浸水時の被害を最小限に抑える工夫がなされています。
屋根材は、耐震面を考え、軽量かつ耐久性を兼ね備えたガルバリウム鋼板を使用。そして、外壁全面には宮崎県産の飫肥杉を用いた〈オビスギウォール〉をご採用いただきました。

以前は中国産の福杉を外壁に使用していたが、ウッドショックによる価格高騰を機に、安定供給とコストバランスに優れた〈オビスギウォール〉を定期採用している。
飫肥杉は、宮崎県日南市・飫肥地方で約400年前から植林が行われてきた杉材で、油分を多く含み、湿気に強いのが特長です。かつては船の弁甲材としても使われていたほどで、シロアリにも強く、外装材として高い耐久性を発揮します。

室内は、全体がゆるやかにつながる回遊動線がポイントです。
「いつか平屋に暮らしたい」と考えられていたという奥様にとって、足腰への負担が少ないフラットな動線と、優れた断熱性能により、ライフステージに寄り添った理想の住まいがかたちとなりました。

その理想の住まいを彩る素材として、床材には北海道産のナラ節無フローリングをご採用いただきました。道内の広葉樹を代表するミズナラを使用した当材は、硬く重厚な質感と、落ち着いた色合いが大きな魅力です。既存の柱や梁、家具と美しく調和し、時を重ねるごとに住まい全体へと馴染んでいきます。
リノベーションだからこそできること
K様邸では、既存の柱や梁に加え、塩原様の事務所やK様邸の蔵に保管されていた古材、旧宅で使用されていた味わいある窓ガラスなど、思い出の詰まった素材が積極的に再利用されています。
取材中、「リノベーションにしかできないこととは何か」について、塩原様のお考えを伺いました。
「木そのものって、人工では作れないじゃないですか。新しいものを買ってきて取り付けるのは簡単だけど、既存の柱や梁、古い素材を活かして建て直すことは、リノベーションだからこそできること。これが、リノベの醍醐味だと思います。」

「ここからは価値観の話になりますが、僕は、木って本当に貴重なものだと思っていて。何十年もかけて育った木を、昔は人力で伐って、運んで、プレーナーなんてないから手で削ってね。そうしてようやく建材になったものを、大工さんたちが手をかけて、時間をかけて、“家”に仕上げてきた。そんな歴史に想いを馳せると、まだ使えるなら使おう、使ったほうが良いよねって、僕は思います。そういう視点がないと、リノベーションって成立しないんじゃないかな。」
自然素材を扱う弊社にとって、塩原様のお言葉は大変嬉しいものであり、それと同時に、素材と真摯に向き合う姿勢が自社の中に根付いているか、改めて見つめ直す機会にもなりました。
利益よりも、目の前の笑顔のために
最後に、今後の展望について伺いました。

〈株式会社Reborn〉取締役ゼネラルマネージャー 塩原様
「今は、新築とリノベの割合が8:2くらいなんですが、今後は少しずつリノベの案件を増やして、最終的には5:5までにできたらと思っています。まあ、そのぶん考えることや手間は増えるんですけどね(笑)。でも、僕はこういう“商売ベースにならないことこそ、工務店がやるべきこと”なんじゃないのと思いますね。」
勤務先の倒産を経験し、個人事務所の立ち上げを経て〈Reborn〉を設立された塩原様。その原動力には、これまで出会ったお施主様やOBの方々をこれからも支え続けたいという想いがありました。会社設立にあたっては、「自分自身が諦めない」という信念を胸に、再スタートを切られたそうです。
エコハウス大賞での受賞は、そんな塩原様とお施主様、双方の「諦めない」想いが、K様邸というかたちに結実した結果だと、取材を通して感じました。また、利益だけを追うのではなく、住む人にとって本当に良い選択を追求し続ける──この姿勢こそが、今回の高い評価につながったのではないでしょうか。
既存住宅を“Reborn=再生”する取り組みは、家に新たな価値と歴史を刻み、次世代へと繋いでいく住まいを社会に増やしていく上で、今後ますます重要な役割を担っていくことでしょう。改めて、Reborn様の家づくりに弊社製品をご採用いただけたことを、心より嬉しく思います。
お忙しい中、貴重なお話を聞かせていただいた取締役ゼネラルマネージャーの塩原真貴様、本当にありがとうございました。公式HPでは、事例紹介や詳細な建築工程が掲載されていますので、ご興味のある方はぜひご覧になられてみてください。
Photo:株式会社Reborn
Text:yano
設計施工:株式会社Reborn
長野県長野市稲里町田牧1327-7
https://reborn-nagano.co.jp/
弊社納材商品
外壁:オビスギウォール(特注加工 / 防腐処理済) 15㎜×126㎜×4,000㎜
床:北海道産ナラ節無フローリング 15㎜×120㎜×乱尺
外壁用釘:カラーステンレスダブロックネイル連結釘 12×51㎜
チャネルオリジナルは、国内外の多様な建材のご提案を通じて、お客様の家づくりと真摯に向き合い、価値ある家づくりを支えるパートナーでありたいと考えています。それぞれの現場や想いに寄り添えるよう、今後も全力でサポートを続けてまいります。