人と自然を繋げる暮らし〈要素のモデルハウス〉

Photo:奥山淳志
JR名古屋駅から車で約20分。愛知県北西部に位置する北名古屋市の住宅街に、力強い梁と柱で建てられた歴史ある作業場が佇みます。その入り口からこぼれる光に導かれて進んでいくと、草木の香り、土の香りに包まれた静寂なランドスケープが広がります。その自然の繊細な美しさに呼応し、佇むのが〈要素のモデルハウス〉です。

要素のモデルハウス(Photo:奥山淳志)
当建築を手がけたのは、1969年から北名古屋市で工務店を営む〈株式会社鈴木建築〉様です。「大地のエネルギーに感謝し、自然と調和した、美しい世界を創る」をコンセプトに、高気密・高断熱でありながら、太陽や風、土などの自然エネルギーを活かした空間設計・温熱環境、そしてインテリアの調和にこだわり、住む人が心地よく快適に過ごせる家づくりを追求なさっています。
今回、鈴木建築様が新ブランドtsunagu(つなぐ)を立ち上げられ、そのモデルハウスに訪問させていただき、代表取締役の鈴木一様にお話を聞かせていただきました。
自然と身体のことから温熱環境を整えるーそれがtsunaguの意味
新ブランドtsunagu(つなぐ)はその名の通り、「人と自然をつなぐ」をテーマ。その意味は、断熱等級6を上回るUA値0.31W/㎡Kの躯体性能に、土、木などの素材の持つ蓄熱、蓄冷効果を掛け合わせ、「人工的な仕組みだけ」ではなく、「自然の熱、湿度と室内環境を調和」させた快適性を成立させています。
近年「省エネ」「高気密・高断熱」が性能表示義務化を共に市場を広げる中、あくまで切り口を「自然」との調和においた考えはどこから生まれたのでしょうか?鈴木社長にお話をお伺いしました。
このモデルハウスを建てるまではG2レベルの性能へのこだわりと、自然素材を使う家づくりというレンジだけを考えてきました。そこをもう一歩、踏み込んで今回のコンセプトに辿り着いたのは、チャネル担当の原田さんにリビングディーさん(静岡)のモデルハウス〈HIBIKI The MIRAI〉を見せてもらったのがきっかけです。
〈HIBIKI The MIRAI〉は、〈もるくす建築社〉代表取締役の佐藤氏(エコハウス大賞の審査員なども務められ、幅広くエコロジー建築で活躍)設計監修のもと、〈株式会社リビングディー(旧第一建設株式会社)〉様が立ち上げられたプロトタイプ規格です。チャネルオリジナルのグリーンビルディング事業製品が多数採用されています。
その後は、いろんなことを佐藤さんに教えてもらうなかで、宿谷先生や荒谷先生という温熱のことだけでなく、蓄熱のことも自身の家でずっと前からそれを体現されていることを知りました。その中で、断熱をやる意味は、有償のエネルギーを節約するためだけにやっているのではなく、自然界に「転がっている微細なエネルギー」との関係を有効に成立させるためにある、ということを学んだんです。
しっかりと断熱をする、そして外部との境界をしっかり作ることで、ナイトパージ(夜の冷気)とか地中の熱とか、自然のエネルギーを取り入れるようにできることが断熱だって言われていて、すごいなと思ったんですよ。そこから自然のエネルギーを上手に使うというところがこれから求められる、地球に求められる住まいといいますか、それが自然と繋がる、というブランドコンセプトになりました。
断熱と自然エネルギーを活かした温熱設計
モデルハウスは、佐藤氏と共に候補地選びも行い、その結果、限られた日照条件下においても快適な温熱環境を実現する一例として、南東に3階建て住宅があり南には作業場が隣接するという、日差しが確保しにくい敷地に計画がされました。

この環境に対応するため、南東側に設けられた吹き抜けには、1階から2階にかけて大きな開口を配置。そこに採用いただいた高性能サッシ「UNILUX(ユニルクス)」は、U値0.5W/㎡K、日射取得率52.7%を可能にするスーパーサーモガラスを使用しており、少ない日射を効率的に取り込みつつ、室内の熱損失を最小限に抑えます。

Photo:奥山淳志
日射を直に受ける1階の床は土間コンクリート、壁の躯体は土壁に。冬は太陽光を床・壁が蓄熱し、輻射熱によって室内をゆっくりと暖め、夏は夜間に地窓から取り入れた冷気を蓄冷し、昼間に放出することで暑さを和らげます。大開口の日差し対策には、外側からの植栽、外付けのロールスクリーンなど窓越しに複数のレイヤーを設け、外と緩やかに繋がりながら日差しを遮る工夫がなされています。
さらに、通年を通して快適な温度・湿度環境を維持するために、壁や屋根全体には木繊維断熱材「STEICO Zell(シュタイコゼル)」を採用。木が持つ高い熱容量と低い熱伝導率によって、冬は寒さから守り、夏は日射を壁内で吸収し、放射を緩やかにするため、室内の温度変化を小さく抑えることが可能に。また、他断熱材より高い調湿性を有しているため室内の湿度バランスを自然と調整してくれるのです。
100%の木の外観

周囲の木々と馴染む、屋久島地杉の外壁(Photo:奥山淳志)
外壁には、大和張りにした屋久島地杉を全面に採用いただき、これからの経年変化が楽しみな「木視率100%」の外観に。防水性が求められる外壁下地には、台風並みの防風雨にも耐え得る高耐久透湿防水シート「ウートップサーモファサード」を使用。油分を多く含み、耐久性・耐候性に優れた地杉と組み合わせることで心理的にも物理的にも永く愛される建築を実現しています。
インテリアは「ライン」「光」「そして素材」
Photo:奥山淳志
室内は、1階床面積が55.06㎡(16.62坪)、2階が34.36㎡(10.37坪)とコンパクトな環境に対して、“吹き抜け”と“曲線の間仕切り土壁”を設けたことで、余白のある開放的な空間に。また、「光の凹凸が見えるようにデザインした」という控えめな照明設計によって、自然と安らぎを感じられる空間が演出なされています。
自然素材にこだわったインテリアには、弊社製品を多数使用いただいております。全館の床材には北海道産ナラフローリング(節有)を、温もりのあるラウンジの天井にはヘムパネリングをご採用いただきました。
鈴木社長からは以下のようなコメントが―
とくに私が好きなのは、北海道産のナラとかタモです。美味しそうですよね(笑)見てるだけで食べたくなるような綺麗さ、デザートのミルフィーユのような感じがして。ナラの赤身と白太のバランスが非常に綺麗ですし、お客様にも気に入っていただけています。
五感で感じる家づくりを目指して

〈株式会社鈴木建築〉代表・鈴木一様
このモデルハウスには鈴木社長の学びが、更に反映されています。
北米の建築思想家にユハニ・パッラスマーという方がいて。その方が『本来建築は自然を人工領域に拡張する』『建築は五感で感じるものだ』と仰っていたんですね。哲学的な言葉なんですけど、つまり『建築と自然はイコールである』ということなのかなって私は捉えていて。自然ってなんで感動するかっていったら、五感がものすごく刺激されるんですよね。連続的に風を感じたり、匂いを感じたり、いろんなことが連続的に起こるんで、すごく自然の中にいると感動するんです。建築も本来五感で感じるものなので、そういうものが自然と同じように感じることができたら、感動するんだろうなと思います。
室内の各所には、アルヴァ・アアルトを感じるような、快適な家の中で外を眺められる空間の創りこみもされているとのこと。まさしく五感の隅々まで配慮された建築の構成は〈要素のモデルハウス〉というタイトル通り、建物のあらゆるフェーズに織り込まれた「つなぐための要素」で構成されているプロジェクトです。
何もかも「均質的にする性能」ではなく、「自然、ひいては地球とのつながり」―まさしくエクセルギーの本質にコンセプトを見出されたような「tsunagu(つなぐ)」という新ブランド。名古屋という「蒸暑」の環境で、このブランドの展開が今後も様々なお施主様に「快適な自然とのつながり」を実現されていくと感じた素晴らしい時間でした。
施工:株式会社鈴木建築
愛知県北名古屋市片場大石9-1
https://suzukikenchiku-kitanagoya.jp
設計:もるくす建築社
秋田県仙北郡美郷町土崎字八幡殿23-5
https://molx.co.jp
弊社納材商品
外壁:屋久島地杉(加工材)
窓:UNILUX 木製アルミクラッドウィンドゥ
UNILUX IsoPlus
床:北海道産ナラフローリング 節有 15x120x乱尺
天井:ヘムパネリング MIXグレード 8x88x2130㎜
デッキ:屋久島地杉デッキ
造作材:タモ巾ハギフリーボード クリア塗装
玄関:木製玄関ドア
外壁下地:ウートップサーモファサード
断熱材:シュタイコゼル
網戸:カートリッジ網戸(ライドグレー)