屋久島地杉が「ウェルビーイング」アーキテクトへ Aroma for Herbal Sauna-サウナ建築に新たな可能性

サウナハーバルカップ(Sauna Herbal Cup)は、2013年に生まれ、2015年からヨーロッパを中心にユニークかつ自然なリラクゼーションを提供するサウナパフォーマンスの大会です。2024年から日本での開催が決定し、第1回大会が昨年7月に行われました。

会場となったのは「サウナの聖地」とも言われる老舗サウナ〈サウナセンター鶯谷本店〉の支店であるサウナセンター稲荷町です。日本でハーバルカップを開催するため、サウナスパ協会の会長であり、サウナセンターを運営する〈株式会社秀斗〉吉田秀雄代表が、倉庫として使用していた6階部分の改装を決意。新たに「サウナシアター(ドライサウナ)」・「スチームサウナ」・「ペンギンルーム」を設置され、世界大会基準のスチームサウナ会場が完成しました。

今回の取材では、株式会社秀斗の専務取締役で、サウナのプロフェッショナルである中川義孝様(以下、中川専務)と、その魅力に目覚め、初のサウナ設計を手がけられた〈笹川絵里建築設計室〉代表の笹川様から、なぜ「屋久島地杉」を採用いただいたのか、また、その世界観についてお話を聞かせていただきましたのでご紹介いたします。

「サウナセンター稲荷町」改装プロジェクト

大会後は、一般の方にも開放されているサウナシアター。取材時に少しだけ体験させていただいたのですが、そこで感じたのは「重厚感」と「まるで森にいるような心地よさ」という不思議な感覚でした。熱せられることで広がる地杉の豊かな香りと、壁材に採用いただいた巾300㎜のスペックによる視覚的な効果によって、本当に自然の中にいるかのような五感を呼び覚ましてくれる感覚を覚えました。

本プロジェクトの経緯について、中川専務と笹川様からお話を伺いました。

(左)〈株式会社秀斗〉中川義孝様、(右)〈笹川絵里建築設計室〉笹川様

中川専務:本来は「アウフグース日本大会の予選会専用会場を作る」というのがプロジェクトの始まりです。今までは横浜のスカイスパさんをはじめ全国の施設を借りて、という状態だったのですが、様々な負荷があり、うちでも作ることになりました。今年2月から解体工事を進める中で、サウナスパ協会の理事達からハーバルカップを日本でも開催するという話があがって。7月の頭に開催が決まったので、それに間に合うよう工期を調整しました。

設計当初は、海外のサウナ室の写真からログハウスをイメージし、ケロ材(樹齢200年以上の立ち枯れたパイン材)を用いた空間を検討されていたという笹川様。しかし、ケロ材は入手が難しく、コストも高額になってしまうことから弊社にご相談をいただきました。

笹川様:「丸太のような意匠ではないけれど、巾広の材を使うことで重厚感も生まれて、木目も全て違うので雰囲気のある空間を作れるかもしれない」と、チャネルさんから屋久島地杉をご提案いただいたんです。送ってもらったサンプルがすごくいい匂いで、森林浴をしている感覚になって。表情が一枚一枚違うので、視覚的にも愉しめる空間になるだろうなと思いました。(サウナセンターの)吉田社長にサンプルをお見せしたら、「これでいこう!」と気に入ってくださったんですよ。中川さんと富山の製材所に行って現物を見た時に「もう、これはいいものになる!」と確信しましたね。

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富山製材所での視察時の様子

中川専務:工事中もすごかったんですよ、香りが。でも、竣工したら香りが薄くなったのでこのまま無くなっちゃうのかなと思ったら、火を入れた時に一気に香りが出てきました。地杉の持つ油分や水分の話を聞いていたので、こうやって呼吸しているんだなと思いましたね。全国の主たるサウナ施設の経営者の方々も、ここに入った時にやはりこの屋久島地杉の香りに感銘を受けていたことを覚えています。

笹川様に設計のコンセプトを伺うと―
笹川様:選手の演技を邪魔しない、演者が輝く空間を目指しました。サウナ室だけではなく「舞台」としても魅力的な空間にしたかったので、タイルの目地や色、配置にとてもこだわりましたね。こけら落とし公演を見た時、演技の背景としても良い空間になるように設計したのは間違ってなかったんだと確信して。屋久島地杉の香りと、またそこに別のアロマオイルの香りが重なって、気持ちいいだけではない様々な体感ができて感無量でした。

ペンギンルームに並ぶ屋久島地杉の丸太たち

室温を6~7℃に設定した「ペンギンルーム」には、屋久島地杉の丸太を採用いただきました。製材所でご覧いただいた際に生まれたお二人のアイディアによる、魅力的な使い方となっています。

最後に

サウナは「温度帯と湿度帯を総合的にどう整えるか」が一番のポイントとのこと。
「水分・油分を持つ屋久島地杉」をこれからもチューニングしながら、ベストポジションを模索されていくそうです。

「耐久性(デッキ・外壁)」「色合い(内装材)」「コスパ」の面から、エクステリア・インテリア建材として多くの方にご採用いただている屋久島地杉。今回、ウェルビーイングなサウナ空間に屋久島地杉を使用いただくことによって、「地杉の木としての特性」「その強いアロマ」「独特の意匠性」=「温度・湿度の体感」「嗅覚」「視覚」、そのそれぞれの働きかけが独特な快適性を実現したと言えるのかもしれません。

そして更には「もう一歩踏み込んだ-自然の中にいるような深さ=感性の領域」という、改めて「五感に響く奥行きのある世界観」を表現できたのではないでしょうか。

今回のプロジェクトでは、舞台装置としての役割を持つ温浴空間が見事に実現されました。それは、吉田代表、中川専務、笹川様をはじめとする皆様が「サウナ」について深い知識と洞察、そしてセンスをお持ちでなければ実現し得なかったものです。これからも「サウナカルチャーの新たな要素」として、この屋久島の森の木が参加させていただくことに期待を膨らませた次第です。この度は、屋久島地杉に新たな境地を切り開いていただき本当にありがとうございました。

※取材では、水風呂と水へのこだわり、お客様の快適性、熱波師の方達への思い、著名サウナ―とのつながりや、更には業界そのものへの提言など造詣に富んだお話を沢山お聞かせいただきました。重ねて感謝申し上げます。

サウナセンター稲荷町
東京都台東区東上野6-2-8
https://sauna-center.jp/sauna-center_inari.html

運営:株式会社秀斗
東京都台東区東上野6-14-15

設計:笹川絵里建築設計室
https://www.erisasagawa.com