自然と人と建築をつなぐ、健やかな住まい「秦野の家(風土と共に育つ家)」

神奈川県秦野市。県北西部に位置し、数々の山が連なる丹沢山地の麓に「秦野の家(風土と共に育つ家)」はあります。丹沢の山々と向かい合うように建つ秦野の家は、その雄大な風景と呼応する美しさを建築、また敷地全体から感じられます。

当建築の土地探しから設計をご担当されたのは、都内を拠点とする〈パッシブデザインプラス株式会社〉様です。「快適で、健康で、豊かな暮らしを多くの人へ」をミッションに掲げ、2019年12月に設立。太陽、風、水、空気、植物といった自然の力を生かしながら、温熱環境、庭づくり、土中環境の改善、と住宅に関わる様々な要素を複合した設計を行われています。

ご紹介させていただく秦野の家は、脱炭素時代の美しい住宅を表彰する「日本エコハウス大賞2022」においてグランプリを受賞されました。今回、代表の冨田享祐様、冨田倫世様に、当建築の設計について、また弊社商材をご採用いただいた理由などお話を聞かせていただきました。

秦野の家(風土と共に育つ家)

駐車スペースの石垣には、既存擁壁を解体した際に出てきた玉石混じりの裏込めコンクリートを使用。通常は産業ごみとして廃棄されるものだが、それを再利用し、コンクリート擁壁よりも水捌けの良い石垣が完成した。

秦野の家の特徴である、小さな山道を彷彿とさせるアプローチ。
元々は高さ2mほどのコンクリート擁壁があり、駐車スペースがないという課題を抱えていました。冨田様は、これまで災害地で山肌再生に携わる造園関係者と協働した経験から「擁壁を解体し、彼らと一緒に駐車スペースと山道アプローチのある庭づくりを行うことで、この土地を“より安全で清々しい環境”にすることができるのではないか」と構想。

環境再生の経験豊富な造園施工会社、そして環境共生住宅*¹に造詣が深いガーデンデザイナーの正木覚氏に声がけをし、土中環境の改善*²を含め、土と植物と建物が一体となった健やかな住環境を実現されました。

*¹「地球環境の保全」「周辺環境との親和」「健康で快適な居住環境」の3つの理念に基づいてつくられる住宅、およびその地域環境/*²コンクリートなど人工物で堰き止められた地中は空気と水が滞る。土中の酸素不足、生き物の減少、樹勢の弱った植物、腐臭、土埃、土砂崩れなどさまざまな影響を及ぼすため、水脈工事などを施し、改善を図る。

建物は、景観やパッシブ設計の観点を含め、南西側に大きく開口を設けています。1階の床は土間コンクリートとし、冬は開口部から太陽熱を蓄熱させることで室内をゆっくりと暖め(ダイレクトゲイン)、夏は地窓からの冷たい空気を取り込み蓄冷(ナイトパージ)します。

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また、南西に向いていることで西日対策は必須。高気密・高断熱、奥行き1200㎜の軒など建物側だけでなく、外側から植栽、外付けカーテン、ハニカムサーモスクリーンなど窓越しに複数のレイヤーを設け、外と緩やかに繋がりながら日差しを遮る工夫もしています。

家を健やかに保つ素材選び

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屋久島地杉の外壁はメンテナンス性(実加工されていないため、補修部分を外しやすい)を考慮し、目板張りに。室内の窓枠や間仕切り、ベンチなどは、フロア同様タモ材を設え、空間全体の意匠バランスを統一されている。

秦野の家では、外壁に屋久島地杉材を、2階フロアに北海道産タモフローリングをご採用いただきました。素材提案では、お施主様の基本的な考え方である「モノを選ぶ時は、一生ものを買うつもりでいたい」という想いをベースに進められたといいます。

“屋久島地杉は、当材を外壁に使用した「野方の家(2021年築)」をお施主様に直接見ていただいたことが決め手です。そのとき僕も初めて(自らが手がけた住宅において)地杉の経年変化を見たのですが、無塗装でも、何十年も家を長く守ってくれる頑丈さがあると確信して。この直感に自分の経験や知見を交えながら、現場でお施主様にお勧めしたことを覚えています。”

“北海道産タモは、色や表情などがお施主様の好みに合致したのが大きかったですね。また先日、タモフローリングを使用した御宅の1年点検に行ったのですが、経年変化の様子を見て、材が持つ力強さを改めて感じました。それと昨年、北海道の工場で製造過程も見せてもらって、一つ一つ丁寧に想いを込めて作られていることを知ったこともあって、これからはもっと自信を持ってお客様にお勧めできると思っています。”(冨田享祐様)

屋久島地杉材、北海道産タモ材の経年した様子から、家を長持ちさせる素材であると感じたという冨田様。物理的にも心理的にも長く愛される建築づくりを理念の一つに掲げる弊社にとって、大変嬉しいお言葉をいただきました。

より健康的な家づくりを広めるために、伝えつづける

取材終盤、住宅性能(断熱と気密)と土中環境を同時に考える設計手法について、パッシブデザインプラスのお二人にお話を伺いました。

“断熱と気密、庭と土中環境を良いバランスで両立できたら、住まいはより健康的になると思っています。断熱気密に力を入れている方が庭に、庭を専門にされている方が住宅性能に興味を持ってくれて、そこに繋がりが生まれたら良いなという想いをずっと持ち続けていて。だから日本エコハウス大賞に応募した際は、僕たちの事例を通して他の方たちにも「両立できるかも。」と思ってもらえる道筋を作りたくて、プレゼンテーションにはとても時間をかけました。”(冨田享祐様)

プレゼンテーション資料を手がけられた冨田倫世様は-
“建築の温熱環境も、土中環境も、具体的に住まい手にとって実際に何が嬉しいのか?というところを掘り下げてわかりやすく伝える努力が大切ですよね。土中のわかりやすい例で言うと、土を整えることで、まず雨天時の水はけが圧倒的に良くなります。いつまでも水たまりがあると、土の泥化、腐臭、蚊の発生など、その場がなんとなく気持ち悪い空気になることは容易に想像がつきますよね。そういった身近な例えから伝えていくことを大事にします。土中を整えることも、結局はパッシブデザインの一つで、自然の力を生かして暮らすことだと思います。建物だけでなく、敷地、周りの気候風土のことも考えてご提案できるのが私たち会社の特長だと思っています。”

最後に

会社設立の背景として、大学院時代に一軒家の外壁でトマトを育て、一面緑化をされたご経験をお話しくださった代表の冨田様。緑化によって真夏日も建物が涼しくなったこと、それを見たご近所のおじさんが自家栽培の野菜をくれるようになったこと。身近にあるものや自然の力を生かすと、環境にも人間関係にも、良い循環や関係が生まれることを実感したといいます。

取材後に改めて「秦野の家」を見つめてみると、「建築と庭(土中)」=「敷地全体」が健やかであることは、住まい手のみならず周囲に暮らす人々の心をも豊かにし、またそれはより良い社会づくりへとつながっていくのだと感じました。住まいを構成する、あらゆる要素のバランスを追求し実現された当建築をきっかけに、新たな好循環が生まれていくことを楽しみにしております。

今回の取材に際し、貴重なお話を聞かせていただいた冨田享祐様、冨田倫世様、本当にありがとうございました。

撮影:雨宮秀也
Text:yano

弊社納材商品
外壁:屋久島地杉 MIXグレード 厚み16㎜
フロア:北海道産タモ節無フローリング 厚み15㎜x巾120㎜x乱尺
玄関:ガデリウス 木製玄関ドア(オーク)

設計:パッシブデザインプラス株式会社
〒154-0022 世田谷区梅丘 1-59-28 梅ラウンジ 1F
https://pd-plus.jp/