人と自然、そして社会をまろやかに繋ぐサーキュラー建築「bokashi」

「食べることは共に生きること」をテーマに企画制作を手がける株式会社マンクス・ロフタン様(本社:北海道札幌市)が、2022年10月、食を軸とした複合スペースbokashiを札幌市大通にオープンなさいました。bokashiは農業用語の「ぼかし*」と、「濃淡の堺をはっきりさせない様」というぼかしの本来の意味に由来した、「消費者と生産者、都市と地方、人と自然との境界をもまろやかに繋いでいく活動集積拠点です。
*米糠やおが屑などの有機物が発酵し肥料化して土に還元される工程。

そして、その空間は「意志ある循環社会を目指す」というbokashiのフィロソフィーを体現すべく、自然環境へのダメージを最小限に抑えようと「環境配慮型建築」に挑まれています。様々な本プロジェクトの背景について、マンクス社プランナーの前田碧様、と設計を担当したatelier momo代表の櫻井百子様にお話を伺いました。

About ≪bokashi≫

食を入り口に人間の営みや自然環境の多様な繋がりを創造する複合スペース「bokashi」。1階は厳選された野菜や加工品のマルシェとダイニング「bokashi Dinig」、2階はシェアスペース「bokashi Base」が設けられており、大開口から差し込む自然光を浴びながら仕事や読書をして過ごせるのが特徴です。

グラフィックデザイナー、アートディレクターなど多岐に渡ってご活躍なさっている高田唯様(Allright Graphics代表)によって手がけられたbokashiのロゴ。実際に北海道に足を運びbokashiの取り組みを見て製作されたのだそうです。

北海道産の自然素材をふんだんに使用し、再利用可能な施工を行うなど、まさしくサーキュラー建築と言えるbokashi。
その理由について、設計者の櫻井様は、
「設計にあたってマンクス社の大倉準さんから「日常的に不動産管理の業務を行うなかで、入退去時の大量の廃棄物には大きな違和感を感じていて、この場所ではできるだけ出さないようにしたい」とご要望を受けました。bokashiが入っているビルは2年後に建て直しをする予定なので、一度退去する予定です。その後ビルができたら戻ってくる予定ですが、私も大倉さんと同じように自分が手がける建築は環境に負荷をかけたくないという想いがあったので、退去の際もゴミをできるだけ出さない、仮に出たとしても、土に還る自然素材を使う空間計画を考えました。」

元々某飲食チェーン店のテナントが入っていたこの場所。解体後、名残を感じる。

またプランナーの前田様は、「木を一つ切るにしても、山があって、切る人がいて、木が育つ環境に気象条件とかも関係していて。その中で私たちにとって『山』はどういう存在かと考えると社会とも不可分で。そうやっていろんなものが巡り巡っている中で、自分達がどういうふうに社会と関わっていきたいかという想いがbokashiを形づくる素材選びに繋がりました。」
二人の、「資源をとって、つくって、捨てる」という線型経済への疑問、そして社会、自然環境との関わり方を問い直していくという意志がこの建築に取り組む背景にはあります。

選りすぐりの素材たちと環境に配慮した施工方法

では、従来とは異なる環境に配慮した建築はどのように実現したのか。
まず大切にしたのはサーキュラーエコノミーの基本である「ゆりかごからゆりかごまで」という製品の原材料を再利用する過程までのライフサイクル全体を視野に入れる素材選びです。

「設計にあたり、今のビルから、次に建て替えられた後に戻ってくる時のことを想定して、再利用可能なものには投資する、という考えの元、本物の自然素材を使うことを意識しました。ものづくりには目に見えない想い入れがあって、その先には必ず『志のある熱い人』がいるんですよね。そういう自然の材料で長く使えて、想いのあるものを探していたらたくさん素敵な人に出会いました。」と櫻井様。
前田様は、「櫻井さんの提案を聞いて、空間ができるってことは人との繋がりが始まることなんだなと感じました。」と話します。

bokashiの外壁には弊社の北海道産のクリパネルを、そして床全面にはタモ、ニレ、シラカバ、ハンノキなどの端材を再利用したラフ加工乱尺材(15×90)をご採用いただきました。
その施工には、「取り外し、また使う」ことを前提に、接着剤を使用した張り込みではなく「釘打ち工法」を採用し、解体時に分解可能、かつ再利用することのできるサーキュラー建築を実現しています。

テーブルとカウンターには、下川産の広葉樹をパルプ用のチップではなく、建材として流通させる活動に取り組む下川たてじま林産株式会社 麻生様の材を使用されています。こだわりの床や家具を暖かく包んでいるこの土壁は、日本屈指の左官職人 久住有生様に師事した野田肇介様(野田左官店)によるもの。解体時に再利用できるようプラスターボードを使用せず45㎜の板と板の間に10㎜程度隙間を空ける木摺り下地の上に、土・砂を塗り込んでいます。さらに製材時に出た背板を厚真町の木の種社 中川様から調達し、それらを空間のアクセントとなる腰掛にアップサイクルされています。

櫻井様へ、弊社のさまざまな北海道産広葉樹をお選びいただいた経緯を伺うと、
「ウッドファミリーの製品は、ただ作ったものを売るのではなくて、要望に合わせてこんなこともできるよっていう提案をしてくださったり、日頃から丁寧に対応してくださったりいつもありがたく感じていて。このプロジェクトで使用した材も、一階跳ねられた端材を、表も、施工をすると見えなくなってしまう裏も綺麗に加工を施したものを納品いただいたんですよね。そんな手間をかけてちゃんとした製品を世に出そうっていう心意気に『物を作る人ってそうじゃなきゃいけないな』ってすごく感動しました。」と、素敵な言葉をいただきました。

北海道知内町にあるウッドファミリーの加工工場。一つひとつの材と向き合いながら製作を行っています。

2018年にスタートした北海道広葉樹プロジェクトは、ご要望に応じて材のカスタマイズも承っており、広葉樹のあらゆる可能性を共に考えご提案させていただいております。今回、櫻井様、前田様、そしてマンクス・ロフタンの皆様には、それらの原板から加工を行うグループ会社 ウッドファミリーの工場にお越しいただき、代表岡田の案内のもと、工程を一からご覧いただき、取り組みに共感いただいたことでご採用いただく運びとなりました。

bokashiの意味と建築空間

さまざまなサスティナブルへの取り組みの上にbokashiは成り立っていますが、実際に空間を覗いてみると、それだけを感じさせない。それぞれの自然素材の香りや手触りから心地よさを感じたり、ほっとくつろいだり、という体験が味わえるよう設計がなされています。こうした人の心理と素材とのつながりについて櫻井様はこう答えます。

「bokashiのコンセプトを聞いた時に、人間もそれぞれ違っていろんな人がいるように、木も節のような個性があった方がいいんじゃないかな、と思うようになりました。いい子ちゃんだけじゃなくてそれぞれに風情があると思うので、素材も人と同じように扱うことで「人と自然との境界もぼかしていきたい」というbokashiの理念に建築が寄り添えるかなと思いました。」

最後に

今回、お話しをお伺いして感じたのは、弊社が唱える「心理的長寿命」とサーキュラー建築の接点です。
素材に機能性や意匠性といった物理的、視覚的な要素を重視することも大切ですが、自然の摂理に従って生き生きと育った素材を経年変化とともに循環させていくことは、その空間への愛着を生み、ひいては心理的にも豊かさを与えます。さらに、それぞれの素材を使いきりたいというプランナー、設計者の想いは、この施設の利用者、そして製品の生産・販売に関わる全ての人の心に火を灯すのではないでしょうか。

bokashiの取り組みは始まったばかり。今後も「意志ある循環社会を目指す」という真のサスティナブルを正面に見据えた展開に注目です。
人と自然、社会とのまろやかな繋がりの中に、北海道産広葉樹を介して素敵なコラボレーションをさせていただきありがとうございました。
TEXT: Hieshima
PHOTO:株式会社マンクス・ロフタン/atelier momo

弊社納材商品
外壁:北海道産 クリ節無 パネリング R面取り8x75x乱尺(2.97㎡/束)
床:北海道産広葉樹 表面ラフフロア 無塗装15x90x乱尺(1.65㎡)
建具:屋久島地杉、カラマツ三層パネル

bokashi
北海道札幌市中央区南二条西1丁目7番地1 二番館ビル bokashi
大通駅35番出口徒歩0分、カナリヤ向かい
bokashi Dining
営業時間:11:00 – 18:00(17:30 L.O.)/ 定休日:水・木
bokashi Base
営業時間:10:00 – 18:00 / 定休日:土・日・祝日

企画:株式会社マンクス・ロフタン(代表:前田碧様、大倉準様、朴理沙様)
食を入り口に森羅万象の複雑な繋がりを探求する企画会社。
「bokashi」の構想〜コンセプト立案から、今後の関連企画の立ち上げを担う。
住所:北海道札幌市中央区南2条西一丁目7番地1 二番館ビル

設計:atelier momo(代表:櫻井百子様)
2008年atelier momo設立、2009年に「下川町21世紀環境共生型モデルハウス」プロポーザルコンペ最優秀賞。2010年北海道赤レンガ建築奨励賞、2012年JIA環境建築賞最優秀賞(住宅部門)2013年木の建築賞他、設計にはできるだけ身近な素材をつかいながら、こころや環境に負荷の少ない設計に取り組む。住所:北海道札幌市中央区宮ヶ丘2丁目1-1 ラファイエット宮ヶ丘303号 Platz.内
TEL: 011-640-8411